azulicat/『不滅のあなたへ』前世編 感想

Created 2023-03-05 06:00 Modified Thu, 04 May 2023 09:48:00 +0000
  1412 Words

昨日、前世編までと現世編の3話ぶんくらいを読んだので感想。

……う、うーん……。悪くはない、悪くはないけど、当初の期待値からは大幅に低落したと言わざるをえない。聲の形のときも7巻からなんか急に具合が悪くなったし、大今先生は長期連載に向いていない可能性があるんじゃなかろうか。

文句言いたい所は色々ある。まあ、気持ちはすごい分かるしちゃんとそのためのビルドアップも丁寧に積んでいたけど、「生き返らせられる」のはやっぱまずかったね。漫画界の禁忌中の禁忌でしょう。あれで一気に緊張感がなくなった。否、そこはまだ問題じゃない。いや問題だけど。それ以上にその後の処理がまずい。というのは、その生き返った肉体への「生命性」のようなものへの疑問をフシが呈さない点。

そういう描写がまったくなかったわけではなかった。不死身の戦士3人組の自殺ワープのあたりとかでは、これが本当に命なのか、正しいことなのかと逡巡するさまもちょっと見えた。しかしその辺の逡巡についてとくに解決がなされないまま、最終話では(既に死んだ後蘇らせられた仲間たちが)人間としてヒロイックに「死んでいく」さまを描かれ、また現世編でもマーチやらエコやらが普通にまったく疚しいことのない「生命」として扱われている。

それがフシの行動原理・思考原理としておかしいかどうかはこの際置いておくとして、そうなると本格的に「不滅のあなたへ」のテーマがブレてしまう。諸行無常の世を描く火の鳥的な大河漫画であったはずが、つまり不滅と謳いながらも不滅のものなどないということを描かんとしていたはずが、本当にノーリスクの不滅を無尽蔵に生み出せることになってしまった。これがデウス・エクス・マキナでなくてなんなのか。もう悲劇も何もない、丸喜先生の造った世界と変わらない。駒として使われることに生前から同意していた三人はともかく、マーチやグーグーやらも残基無限のクローンとして扱われてしかも誰もそれに疑問を呈さないさまは正直不気味。

あと現世に残るか天国に行くかのやつもよくわからんし。華々しく散ったはずのやつが残ってたり、未練ありそうなやつが成仏してたり。あとこうなると天国行った奴が損でしなくないかという。現世編でこの辺について触れてくれるならいいんですけど。

それと、もうかれこれ800年近く生きてる割にフシの精神がグーグーといたあたりからほとんど成長してないのも気になる。800年ですよ?フル稼働ではないにせよ、人間でいえば10回ぶんくらいの生を過ごしてるのに未だに幼いままというか、人間離れした感じがまるでない15歳そこらの少年みたいな心であるのは大変不自然に思える。宝石の国のフォスみたいなことになってもよさそうなのに。宝石の国読んだことないけど。

最後に、現世編についても色々うーんという感じ。これはもう裏も取ってるんすけど、作者が「不滅」の世界観そのものに飽きたから巻き気味に第一部を終わらせて、描きたかった学園モノに移行したようにしか思えない。それなら不滅ごと畳んでよかったんじゃないスか。不滅でやる意義が本当にあったのか。このへんは現世編読んでみないと何とも言えない所ではあるが。「セーラー服が描きたい」みたいな80年代のポップスみたいな理由で物語動かされるのは不安だなあ。

全体として致命的に悪かった点はないものの、総じて右肩下がりだったのは否めないです。特にウラリス王国編は長すぎだし退屈。



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