azulicat/『リボーンの棋士』感想

Created 2023-03-07 15:00 Modified Thu, 04 May 2023 09:48:00 +0000
  1138 Words

よかった。最後ちょっと駆け足気味ではあったし、スッキリする終わり方とはいえないが、それは想定範囲内だったしむしろ『リボーンの棋士』らしい終わり方で納得できました。あれ以上はなかった、とは言わないが、充分及第点だろう。

特徴

最も特徴的だったのは、まんが……というかフィクション全般の常識というかお約束が全く通用しない作品であったこと。「先が読めない」というのとはちょっと違う。先はむしろ読みやすい部類。そうではなく、なんていうか……フリがフリとして機能しないのだ。
例えるなら「押すなよ?絶対押すなよ!?」は本当に押すなという意思表示であり、ボス戦で「やったか!?」と叫んでみても土煙が晴れた先には本当にボロ雑巾のように倒れ込んでいる敵の主将がいる。それがリボーンの棋士の世界である。要するに、「勝ったな、風呂入ってくる」で本当に勝っているのだ。本作の殆どの対局においてはこれが適応される。

普通ならどう考えても逆転のフリ、あるいは逆転まではないにしてもなにかもうひと悶着あるような「フリ」の描写がそのまま全無視され安住が勝利する。フリがフリとして機能していたのは土屋VS安住くらいか。これには色々困惑を禁じ得なかったが、それがリアリズムと言われたら閉口するしか無い。まあ、とくに将棋みたいなゲームでは「勝ったな」になればそれは勝ちでしょう十中八九。

特によかった点

安住は終盤まで(特にここぞという勝負で)かなり勝率が高い。ともすれば俺TUEEEE系のなろうみたいな話になりかねない所を、要所要所で確実に「プロになれなかった、ただの将棋が強いフリーター」でしかないという事を知らしめてくるシーンがあって、そのバランスの取り方が絶妙だった。やりすぎてもくどくなるし。悪意のない見下しが渦巻く世界と、それに堪えない訳では無いがやられすぎることもない主人公のメンタリティが丁度よかった。

ヒロインかと思われた森さんもいつのまにか結婚していたという。好きだった夢を諦めて結婚していく人の姿を、反面教師的ではないニュートラルな描き方をしたのもよかった。別に安住みたいなスタイルだけが正解じゃない。まさに「それぞれに幸せの形がある」ことを体現する物語。だからこそ、結局プロになれず幕引きしても昏い終わり方ではない。ヒカルの碁のように「これで終わりではない、終わりなどない」のです……人生にも将棋にも。

総じて要点を割とコンパクトにまとめてあったと思う。年齢制限を超えて、およそもうプロになることが絶望的な主人公というかなり攻めた舞台設定の割には終始いい意味で手堅い漫画でした。伝えたいことがわかりやすかったし、ゴリゴリに将棋用語が出てくるのに将棋の知識がなくても楽しめる構成になっているのも高ポイント。



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